お返しの1杯



その日の朝。

紅茶をのせたトレイを片手にした料理人は、 展望室で独り、思い切りしょっぱい顔になっていた。


昨夜の見張り番をしたブルックに、朝の紅茶でも持っていってやろうと仏心を出したのが仇になったのだ。
朝っぱらから、まさかこんなもんを見せられるとは。



部屋の真ん中には、一つ毛布にくるまった剣士と音楽家。

毛布からはみ出しているむき出しの二人の手足。部屋の片隅に丸まっている二人の服。
そして何より、剣士の肩に音楽家が頭を預けてうつぶせに寝ている姿をみれば、昨晩何があったか、もっとハッキリ言えば、二人が何をしたのかは一目瞭然だった。



俺とした事が。ああ俺としたことが。

起きた時、寝ずの番のブルックだけでなく、クソマリモのベッドも空だったのに気づくべきだった。
朝食の下ごしらえの為に自分が起きたのはまだ薄暗い早朝で、丸まった布団を人と思い込んでいたんだ畜生。

怒鳴って起こして、二人にいたたまれない思いの一つもさせてやろうかと思ったが、かろうじて思いとどまったのは、満足そうに太平楽な顔で寝ているクソマリモに対して、ブルックが、手足をグッタリと投げ出して精魂尽き果てたといった風情だったからだ。

同意の上だろうとはいえ、突っ走った若造にこの音楽家が果たして昨晩どんな目に遭わされたのか、ちょっとばかり同情した。
ここは見なかったことにして、黙ってそっと去るのが音楽家への(クソマリモへのでは断じてない)思いやりというものだろう。



だけど。



その枕元にそっと紅茶を置いていったのは、せめてもの意趣返しだ。




「この紅茶……!」
昼近くにようやく目覚めた音楽家は、すっかり冷めた紅茶を手にフルフルとふるえていた。
「あ……ああああ~~!サンジさんに見られてしまいましたよおおお~~~~!!」 「気にすんな。」
「いや気にして下さいよ!」







藻骨とばっちりの三。
どうしてSSにしたかって、マンガにしても寝こけている二人とつっ立ってる三の絵面ばっかりになってしまうからでございます。