・・・・サンジが、女性に甘いのは周知の事実である。 だから、サンジがサンジである以上。女性のティータイム時に尽くしている姿は当たり前の、ありふれた行為であり光景なのだろう・・・・・けれど。 「どうぞ、レディ。貴方のためだけに、用意しました。」 丁寧に、言葉を捧げながら。紅茶が入ったカップを恭しく渡すサンジを、困ったように見ながらも。 そぉ、と。 渡される好意を、おずおずと受け取って。丁重に扱われることに慣れていないためか、揺れる声音で、たどたどしく。 「・・・・あ、の。ありがとう、ございます。」 照れくさそうに、礼を告げ。恥ずかしそうに笑うブルックが、ゾロは気に入らなかった。 サンジが気に入らない、ではなく。ブルックが気に入らない、と感じたことにゾロは大きな違和感を覚えたが。 嬉しそうに、サンジと会話しているブルックが気に入らない感情は、時間がたつごとに増すばかりで我慢できなかったから。 ブルックの邪魔をするように、ゾロは。 「・・・・・おい、コック。酒。」 普段なら、進んで会話をしない相手に。端的に、不自然に思われない要求を告げる。 「水で、充分だ。テメーなんぞ。」 そのゾロの言葉に、おもしろくなさそうに噛みつきながらも。基本、人のいいサンジは喉が渇いた(と思っている)ゾロのために、キッチンに戻っていった。 そうして、ブルックと二人になったゾロの裡には。さっきまで感じていた、ブルックが気に入らない感情は微塵もなくなっていた。 (?なんでだ?) さっきまで、確かにあった感情の喪失に訝しみながらも。なくなったのならいいかと、気持ちを切り替えたゾロはサンジから貰った水を飲んで、その日はそのまま、大人しく昼寝した。 ・・・・だけど、あれからも度々。ブルックに対して、「気に入らない」という感情をゾロは抱くようになった。 その感情は、ブルック一人のときではなく。サンジといるときに、サンジに笑いかけるときに、感じることだとゾロは悟った。 (・・・・・他の奴に笑いかけるときは、そうは思わなねえのに。なんであいつだけ?) それを不思議に思い、さらに注意深く二人を見。自分の感情を探りはじめたゾロは、そこでようやく。 (・・・・・・・・・・・・あまい、笑顔だな。) ブルックが、皆(自分も含める)に向ける陽気な笑顔ではないソレが。気に入らないのかと、気付く。 女性なので、ひどくブルックを甘やかすサンジに。返す、甘やかなブルックの表情が「気に入らない」。 ・・・・・・いや、「気に入らない」の奥に。まだ、なにか在りそうな気がするゾロだったが。 「・・・・・・・おい、コック。酒。」 これ以上、サンジに向けるブルックの笑顔を見たくないので。また二人の邪魔をしにいったために、この日の思考はここまでで終わった。 ・・・・・・・・そして、数日後。 またも何度か、見る羽目になった二人の姿に。ゾロは、とうとうブルックに感じる、「気に入らない」の奥にあるものに気付いた。 (・・・・・・・・・あの、あまい笑顔を。俺も、欲しがっているんだ。) だから、自身が欲しがっているソレをサンジだけに向けるブルックが気に入らない、と感じていたのだろう。 それに気付いたことで、ゾロはブルックのあまい笑顔を求めようとする・・・・・・が。 (・・・・・笑顔、なんて。どう、引き出せばいいんだ・・・・・・?) 早速、難題にぶち当たっていた。 サンジの真似をすれば、手っ取り早く、求めるものは向けられるだろうけれど。ゾロは、サンジの真似なんぞ死んでもしたくない。 ・・・・・でも、それなら、どうすればいいのかゾロはさっぱり分からない。 分からない・・・・が、誰かに相談するというのも嫌だ。 (・・・・あまい笑顔、をブルックにしてもらうには。どうしたらいい、なんて聞ける訳がねえ!!!!) なので、ときに自分で考えながら。ときにサニー号にある書庫に収められている本に、参考になるものがないか探しながら、色々としてみたが。 返ってくるのは、陽気な笑顔だけ。 それが、悪いという訳ではないけれど。ゾロが欲しいのは、その笑顔ではない。 色々やってみても、欲しいものはブルックに向けてもらえず。とうとう、手詰まりになったゾロは。 (・・・・・・参考にするだけだ。決して、真似するわけじゃねえ!!) ものすごく不本意そうに、嫌そうにサンジの行動を観察した・・・・・が。 (・・・・・・・できるか、ボケ!!) キレて、終わった。 (・・・・・・・あんな、スラスラと歯が疼くような甘ったるい言葉。過剰に、女を甘やかしすぎる行為なんぞ。死んだって、無理だ!!) 人間には、出来ることと出来ないことがある。と、結論づけたゾロは。 (・・・・・・・どう、するか。) 手詰まりな、状態に戻った。 そのことに、難しい顔をしていたゾロに。 「・・・・・・あ、ゾロさん。どうしましたか?」 ゾロを悩ませている原因が、声をかけてきた。 「・・・・・・・・・・・・・別に。」 流石に、本人を前にして言えるはずもないので。端的に、何でもないと答えるゾロに。 「そうですか。」 あっさり、と。聡い彼女はゾロのただならぬ空気を分かっているが、言いたくないことなら、と触れずに受け入れる。 そうして、受け入れたあと。 「ロビンさんから、頂いたものなんですが。よかったら、ゾロさんもいかがですか?」 左手に持っていた数本の花のうち、一本をゾロに差し出してくる。 白い、それが何か分からないゾロは。ブルックに、問う。 「・・・・・・何の花だ?」 「バラ、ですよ。」 「?いやに地味な、バラらしくないバラだな。」 「品種によって、咲き方が違いますからね。 でも、とても良い香りなんです。気持ちが、落ち着きますよ。」 だから、どうぞ。と、差し出してくるブルックに、気遣われていることが分からないゾロではないので。 「・・・・わりいな。」 受け取ることにした。 その時。 少しだけ、欲しかったソレに似ている笑みを向けられながら。ブルックから花を渡されたことに、嬉しい気持ちになりながらゾロは。 「ブルックは、花が好きなのか?」 会話を続ける。 そうすれば。 「はい。好きですよ。」 とても、やわらかい表情が。「好き」という言葉が、ゾロに齎された。 それは自身に対しての、「好き」の言葉ではないけれど。でも、その言葉を聞いただけで赤くなった顔を、ブルックに見られたくないために顔を背けながらゾロは。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。そ、うか。」 そう、言葉少なく答えたあと。 (なんで、たかが「好き」って言われたぐらいで。俺は、動揺してるんだよ!?) ぐるぐる、と。思い悩みはじめたゾロは、ブルックの「あまい笑顔が欲しい」という気持ちの奥にあるものに、まだ気付いてはいない・・・・けれど。 顔を背けたゾロを不思議そうに見ているブルックが、後日サンジとともに笑って過ごす姿を見て。はっきりと、ゾロは。 (あいつだけに向ける笑顔が気に入らないのは、あまい笑顔を俺にも向けて欲しかったのは。 ・・・・・・好き、だからだ。) 悟る。 そうして、ブルックへの想いを悟ったあと。その想いのままに、ブルックに手を伸ばすゾロだが。 その手を悉く邪魔してくるサンジと殺りあうことが、日常になることとなる。 (・・・・・ただ、ただ、彼女だけが欲しい男たちの争いのはじまり。) |