-------------変な気分だよなあ。

飲みかけのビールはもう気が抜けかけている。
ちびりちびりと飲みながら、幽助は飛影を見下ろしていた。
 幽助はソファに座り、飛影はその横で絨毯に座り込んでソファに背中をもたせかけている。
目線を合わせないこの位置関係は、はっきり言って「二人で酒盛り」という感じではない。
おまけに飲み始めてからほとんど会話も無いときている。
 いつもの幽助なら、相手が誰だろうと気軽にあ−だこ−だくっちゃべるのだが、何故か今はどうにもうまく言葉が出ないでいた。

(そういえば、こいつとこうやって二人きりでいるのって初めてじゃね−か?)

底に残ったビールを持て余して缶を揺らしながら、ぼんやりと考える。
 大抵桑原か蔵馬が一緒で、しかも一緒に「戦った」記憶しかない。
そのちょいと前の記憶はといえば、百目の飛影にずたぼろにされて殺されかけたというシロモノだ。
落ち着いて、二人で会話を交わしたことなんてなかった。

    
(そうだ・・・。こいつ、人間・・・じゃね−んだよな−・・・)
 小柄な身体は人と変わらなく見える。だが白いバンダナの下に 隠された額の眼を、身体を覆うすさまじい妖気を、幽助は既に 知っている。
自分とは明らかに異なる生物で、自分と一度は命 懸けで戦って。それが今、自分の傍らで酒を飲んでいる。
(-------------変な気分だよなあ)

 幽助が沈黙を破れずにいるのは、柄にもなくそんな感慨めい たものにちょっと浸ってしまっていた為と、もう一つ、つい先 ほど目撃してしまったシーンの衝撃がいまださめやらぬ状態で、 どうにも気まずい気分になってしまっているからでもあった。
 誰だって他人様のベッドシーンを見た後で、当人にどんな顔を したものやら困るのものだが、それがしかも蔵馬と飛影だ。

 他人と馴れ合うのを嫌いそうな性質(たち)の飛影が、蔵馬とそういう関係にあったというが不思議でもあり、同時にどこか納得も していた。
同性でどうの、という嫌悪感が何故か無いのは、二人 が妖怪だからでもあるだろうか。きっとモラルは人間のそれと は違うのだろうし、それに何より、幽助の目にはいつも、二人 は妖怪同士深いところで分かり合い、気を許しているように映 っていたから。

 蔵馬は飛影のことを分かっている。多分幽助よりもずっと。
飛影の過去も、心も、・・・身体も。
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